古民家暮らしに憧れはあるけれど、寒さや虫、維持の手間を思うと一歩が踏み出せない。そんな方は多いと思います。私も同じでした。
結論から言うと、古民家暮らしは「合う人にはとても豊か、合わない人には負担」という、はっきり相性の出る暮らし方です。そして相性を確かめる一番安全な方法が、いきなり買わずに「賃貸で試す」ことでした。
私は2024年11月に大分市から日田市へ移り、空き家バンク経由の古民家に賃貸で住んでいます。この記事では、実際に住んでいる立場から、メリットとデメリットを程度感つきで正直に書きます。売る側ではなく、暮らしている側の本音として読んでもらえたらうれしいです。
古民家の賃貸暮らしとは?「買わずに試す」という選択肢

古民家暮らしと聞くと「購入してリノベーション」を思い浮かべる方が多いはずです。実際、ネット上の記事もほとんどが購入前提で書かれています。ですが私が選んだのは、空き家バンクを通じた「賃貸」でした。
理由はシンプルで、古民家暮らしが自分たちに合うかどうか、住んでみないと分からなかったからです。数百万円をかけて買ってから後悔するより、まず借りて確かめるほうが、失敗のダメージがはるかに小さくて済みます。
なぜ購入ではなく空き家バンクの賃貸を選んだのか
私は現在、日田市内で新居の計画を進めている最中です。つまり古民家は「新居ができるまでのつなぎ」であり、同時に「田舎の一軒家暮らしを体験する期間」でもあります。
この位置づけが、精神的にとても楽でした。設備が古くても、庭の手入れが大変でも、「お試し期間だから」と前向きに捉えられます。移住そのものが初めての人ほど、この「賃貸で試す」というクッションは効くはずです。
そもそも私の移住は段階的でした。2021年に品川区から大分市の分譲マンション(賃貸)へ移り、2024年に大分市から日田市の古民家へ。都会からいきなり田舎の古民家に移ったわけではありません。地方都市を挟んだ二段構えだったことが、ギャップを和らげてくれたと感じています。
我が家の古民家プロフィール
我が家は、庭付きの一軒家です。都会のマンションでは考えられない広さの居住空間と、家庭菜園ができるだけの庭がついています。空き家バンクの物件は自治体経由で紹介されるため、地域とのつながりが最初から生まれやすいのも特徴でした。
物件情報には「明治築」とあり、築年数は100年を超えます。間取りは9DK、和室と洋室が混在し、トイレや風呂まわりは増改築の跡があります。古い割に内部の状態は比較的きれいで、内見時点で「雰囲気のいい古民家だ」と感じたのを覚えています。庭はおよそ200〜300㎡、倉庫と土蔵もあります(土蔵は老朽化が進み、中には入れません)。周りは細い旧道沿いで、同じ班(町内区)には5世帯ほどが暮らしています。空き家も目立ちますが、移住者を遠ざけるような雰囲気はなく、むしろ「若い人が来てくれた」と歓迎してもらえました(60代以上の方が多いので、30〜40代でも「若手」扱いです)。すぐ裏が山なので、夜は鹿の鳴き声が聞こえることもあり、たまに畑が野生動物にやられることもあります。
住んで分かった古民家暮らしのメリット

先に良い面からお伝えします。古民家暮らしの魅力は「同じお金でより広く、より自然に近い暮らしができる」ことに尽きます。数字にしにくい豊かさが、日々の生活の中にありました。
家賃が安く、部屋が広い
古民家賃貸の最大のメリットは、コストパフォーマンスの高さです。都市部のマンションと比べて、同じ家賃でも得られる広さがまるで違います。
私自身、2021年に大分市へ移った時点で、同じ家賃で東京時代の1DKから2LDKへと広くなる体験をしました。日田の古民家ではそこからさらに広くなり、部屋数にも庭にも余裕があります。在宅で仕事をする身としては、仕事部屋と生活空間を分けられるのは大きな利点です。
早朝の空気で季節を肌で感じる
正直に言うと、古民家そのものが涼しいわけではありません。日田の夏は全国でも屈指の暑さで、断熱性の低い古民家は昼間エアコンをつけっぱなしにしないと過ごせません(この点は後述のデメリットで詳しく触れます)。
それでも都会のマンション暮らしでは味わえなかった感覚があります。朝晩、特に早朝は真夏でも比較的過ごしやすい時間帯があり、その時間に近くの川沿いを散歩すると、山と川が近いこともあって鳥の声とせせらぎで目が覚めます。季節の気配を肌で感じながら1日を始められるのは、この土地に住んでいるからこその豊かさだと感じています。
庭で家庭菜園ができる
私が古民家暮らしで一番気に入っているのが、庭での家庭菜園です。今は季節の野菜に加えて、イチジクとぶどうを育てています。
自分で育てた野菜や果実を収穫して食べる体験は、想像以上に満たされるものでした。スーパーで買えばすぐ手に入るものを、あえて時間をかけて育てる。その手間そのものが、暮らしの豊かさになっています。
それまでアパート・マンション暮らしで、家庭菜園といってもベランダの鉢植え程度しか経験がありませんでした。庭の畑を自由に使ってよいと言われ、季節野菜を中心にいろいろ育ててきました。地植えで野菜を育てること自体が初めてで、何もかもが新鮮でした。最初に収穫したのはサニーレタスです。植えて1か月ほどで葉が大きくなり、必要な分だけちぎって収穫し、残りはまた育つのを待つ。自分で育てたものを食べる実感を、初めて持てた瞬間でした。その後もズッキーニ、ミニトマト、ナス、ピーマン、じゃがいもなどを育て、果菜・葉菜・根菜をひととおり経験しました。じゃがいもを掘り起こしたとき土の下にたくさん実っていたうれしさや、スーパーでは高いミニトマトが夏の間好きなだけ採れるお得さは、プランターでは味わえなかった収穫です。
趣があり、心に余白が生まれる
古い木の柱や梁、土間や縁側といった空間には、新築にはない趣があります。効率だけを考えれば不便な部分もありますが、その不便さも含めて味わいだと感じるようになりました。
朝、庭を眺めながらコーヒーを飲む。そんな何気ない時間に心の余白が生まれます。都会で働いていた頃に失っていた感覚が、少しずつ戻ってきました。
住んで分かった古民家暮らしのデメリット・注意点

正直に言えば、古民家暮らしには大変な面もあります。ここを知らずに憧れだけで飛び込むと、後悔につながります。ただし、あらかじめ知っておけば対策できるものがほとんどです。
断熱性の低さ|夏も冬も光熱費に直撃する
古民家最大のデメリットは、断熱性の低さです。土壁や隙間の多い造りは、風通しの良さと引き換えに、夏の暑さも冬の寒さも室内にそのまま伝わってきます。「古民家は夏涼しい」というイメージを持たれがちですが、前述の通り日中はエアコンなしでは過ごせず、涼しさを感じられるのは早朝などごく限られた時間帯です。
冬はさらに厳しく感じます。真冬は最高気温が5度を下回る日もあり、暖房をつけても暖まりにくい、朝晩の底冷えがつらい、といった声はよく聞きますが、実際その通りでした。引っ越した当初は居間のエアコンが故障していて使えず、しばらく灯油ストーブとヒーターで乗り切りました(後日、大家さんに新しいエアコンへ取り替えてもらえました)。断熱・気密性の高いマンションと違い、非効率な古民家は冷暖房の電気を垂れ流しやすく、光熱費は体感で3〜5割ほど上がった印象です。夏も冬も冷暖房をつけっぱなしにする時間が長くなりがちなので、古民家を検討する際は年間を通じた光熱費を織り込んでおくと安心です。
虫や小動物は「出る前提」で付き合う
自然が近いということは、虫や小動物も近いということです。都会の集合住宅ではまず見なかった生き物と、古民家では日常的に顔を合わせます。
大切なのは「出るのが普通」と受け止めて、事前に対策しておくことです。過度に恐れる必要はありませんが、都会の清潔な環境に慣れきっている人ほど、最初は驚くかもしれません。
私の家でも、隙間から虫が入り込み、夏は大小問わず虫を見ない日がないほどです。妻は大の虫嫌いで、住み始めた頃は慣れずに、古民家についてきたことを少し後悔しかけていました。それでも人は慣れるもので、今では「出るのが普通」を実感として受け止められるようになっています。
掃除や草刈りなど、維持管理の手間
家が広く庭があるということは、その分だけ手入れの範囲も広がります。特に庭は、放っておくとあっという間に草に覆われます。
部屋数が多く段差もあるため、マンション時代に使っていたロボット掃除機が入れない部屋も少なくありません。掃除の手間は、広さに比例して増えると実感しています。
草むしりは、夏の間は週に2〜4回ほど、比較的涼しい早朝に30分ほど向き合う時間があります。庭のうち使っていない場所や通路にしたいエリアは防草シートと人工芝を敷いてBBQスペースを兼ねる形にし、雑草が生えにくいようにしました。家庭菜園のエリアは、今のところ手で雑草を抜いています。
耐震・インフラ・防犯は事前チェックで軽減できる
古民家は築年数が古いため、耐震性、電気配線や水道管の劣化、防犯面に不安が残る物件もあります。ここは憧れだけでは見落としやすいポイントです。
ただし、賃貸なら入居前にこれらを確認できます。気になる点は契約前に貸主や自治体へ質問し、納得してから住み始められるのが、賃貸ならではの安心材料でした。契約前後の役所手続きやライフラインの段取りは、地方移住の手続きとやることで時系列に整理しています。
古民家暮らしに向いている人・向いていない人

ここまで読んで分かる通り、古民家暮らしはメリットとデメリットがはっきり分かれます。だからこそ、向き不向きを冷静に見極めることが大切です。
向いているのは、次のような人だと感じています。
- 多少の不便さを「味わい」として楽しめる人
- 庭いじりや家庭菜園、家の手入れそのものに喜びを感じる人
- 自然の近さと引き換えに、虫や夏冬の気温差を受け入れられる人
- 都会の効率より、季節を感じる暮らしに価値を置く人
反対に、次のような人は慎重に考えたほうがよいです。
- 気密性の高い快適な住環境を最優先したい人
- 虫や生き物がどうしても苦手な人
- 家や庭の手入れに時間を割けない、割きたくない人
大事なのは、どちらが優れているという話ではないことです。自分の暮らしで何を優先したいかによって、答えは変わります。だからこそ、頭の中の憧れではなく、実際に住んで確かめる価値があります。
これから古民家暮らしを始める人へ|賃貸で試すという選択

私からの提案は、いきなり買わず「賃貸で試す」ことです。合わなければ引っ越せばよく、合えば購入や新築へ進めばよい。この身軽さが、移住初心者にとって何よりの保険になります。
空き家バンクの活用と、地域との関わり方
賃貸の古民家を探すなら、各自治体の空き家バンクが入り口になります。物件情報だけでなく、その地域とのつながりが自然に生まれるのが、一般の賃貸サイトとの違いです。
私が大分市から日田市へ移った決め手も、実は物件そのものより「人」でした。日田で出会った若手農家の方々のコミュニティが、この土地で暮らす後押しになりました。
実際に住んでみて、地域付き合いの濃さも実感しています。回覧板や自治会があり、川の清掃や山の清掃といった共同作業も回ってきます。山の清掃は、落ち葉を掃きながら歩く半分登山のようなイベントで、数年に一度のペースだそうです。大分市や東京にいた頃には想像もしなかった行事の多さに、正直大変だと感じる場面もあります。それでも賃貸という身軽な立場だからこそ、面白い体験として楽しめている実感があります。周りに住む方はいい人ばかりで、姿を見かけたら気持ちよく挨拶する程度の距離感で、深く干渉してくるような雰囲気ではありません。
移住は物件選びであると同時に、人とのつながりを選ぶことでもあります。賃貸で試す期間は、その土地と自分の相性を測る時間にもなりました。
まとめ

古民家の賃貸暮らしについて、住んでいる立場から本音をお伝えしました。最後に要点を3つに絞ります。
- 古民家は「同じお金で広く、自然に近い暮らし」ができる一方、断熱性の低さ(夏冬とも光熱費が上がる)や虫、手入れの手間という現実がある
- メリットとデメリットがはっきり分かれるため、向き不向きを冷静に見極めることが大切
- いきなり買わず「空き家バンクの賃貸で試す」ことが、失敗を小さくする一番の方法
憧れを憧れのまま終わらせず、まず一度住んでみる。その一歩の踏み出し方として、賃貸という選択肢をぜひ検討してみてください。


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