新規就農の相談の流れ|3つの市を回った記録

働き方・事業

「地方で新規就農したいけれど、何から手をつければいいか分からない」——そう感じている会社員の方は少なくないと思います。自分も同じところからのスタートでした。結論を先に言うと、新規就農の相談は「気になる市町村の農政課に足を運び、紹介された農家に会いに行く」の繰り返しです。この地道な繰り返しでしか、相談は前に進みません。この記事では、大分県内の竹田市・由布市・日田市という3つの市を実際に回った相談の流れと、その先で痛感した「農地継承は運の世界」という現実を、当時の記録をもとに紹介します。移住の経緯全体はフルリモートで地方移住はできる?会社員の2段階移住体験談に詳しくまとめているので、ここでは新規就農の相談プロセスに絞って書いていきます。

新規就農を考え始めたきっかけ

YouTubeの動画を見ながら農業への憧れを膨らませる会社員

きっかけは、仕事がしんどかった時期にYouTubeで見た、久住(竹田市)で新規就農した若い夫婦の動画でした。畑と山に囲まれた暮らしが眩しく見えて、「自分もこんな生き方ができるんじゃないか」と本気で調べ始めたのが2023年10月ごろだったと思います。正直、この時点では久住の景色に憧れていただけで、何を育てたいかも決めていなかったんですが、年末にかけて新規就農フェアや県の就農支援情報を調べ倒すうちに、気づけば竹田市・由布市・日田市という3つの市の農政課を渡り歩くことになりました。どこに相談すればいいか分からない場合は、まず「農業をはじめる.JP」のような全国規模の相談窓口を起点にするのも一つの手です。私はそこから気になる市町村の農政課へ直接足を運ぶ形に進みました。

竹田市|憧れの景色と、現実的な壁

久住の高原を背景に農家夫婦と面談する会社員

新規就農者向けイベントとファーマーズスクール制度との出会い

2024年1月〜4月ごろ、新規就農者向けのイベントに参加したのを皮切りに、竹田市のファーマーズスクール制度を知り、農政課へ相談に行きました。紹介してもらったのは、竹田市でピーマン農家を営むご夫婦です。面談で印象に残っているのは「大儲けはしないが、生活には困らない」という一言でした。数字で語ってくれる人の言葉って、変な希望論より説得力があるんですが、この一言で「農業って夢物語じゃなくて実務なんだな」と腹落ちした感覚がありました。

農家面談で得た言葉と、憧れの土地では就農できないという現実

ただ、憧れていた久住エリアは標高が高く栽培できる作物が限られるうえ、必要な栽培技術のハードルも高く、そもそも周辺に相談できる農家が少ないという現実がありました。加えて妻から「そもそも何を育てたいの?」「あそこまで田舎なのはちょっと…」という指摘があり、自分が景色だけに惹かれて作物も暮らし方も決めていなかったことに気づかされました。由布市に気持ちが向き始めた段階で、竹田市の農政課にはきちんとお詫びの連絡を入れ、竹田での就農検討は終わりにしました。

由布市|作物を軸に切り替えて出会った農家たち

由布の畑で複数の農家と面談する会社員

作物を軸に考え直し、次に向かったのが由布市でした。

「持つ者」と「持たざる者」の違いを痛感した面談

由布市の農政課に相談すると、推奨作物として挙がったのは白ネギでした。紹介してもらったのは、実家の農業を引き継いで民泊も手がけている方、就農して間もない方、そして長くネギ農家を営んでいるベテランの方の計3人です。立場も経歴も違う3人と面談を重ねる中で見えてきたのが「持つ者」と「持たざる者」の違いでした。実家が農家で土地も機材も引き継げる人と、自分のようにゼロから用意する人とでは、スタートラインからして違うという話です。ベテランの方からは「夢だけで始めるのはやめた方がいい」ともはっきり言われ、数字と経験に裏打ちされた言葉だったので余計に重みがあったんですが、正直この時点ではまだ半信半疑でした。

ファーマーズスクールの検討と、日田・果樹への転換

由布市には白ネギのファーマーズスクールという研修制度もあり、市役所への相談から入校式、研修開始まで約1年がかりのスケジュールを一通り検討しました。観光地としての力の入れ方に比べると、農業への支援は少し手薄に感じる場面もあったんですが、それより大きかったのは、面談したネギ農家の方から「日田でフルーツはどうか」と勧められたことです。緻密な性格が向いているという話も添えられ、由布市のファーマーズスクールには入校せず、検討段階で日田市に興味を移すことになりました。

日田市|熱量のあるコミュニティとの出会い

日田のぶどう畑で若手農家と話す会社員

紹介でつながった若手農家コミュニティ

由布市のネギ農家の方の紹介で、2024年7月、日田の若手農家コミュニティでリーダー格の存在だった、ブランドスイカを手がける農家の方と初めて対面しました。この日は大分市から日田市まで日帰りで車を走らせたのですが、移動と情報収集がどれだけ体力を消耗したかは、移住の内見と宿泊費補助|日帰り往復がきつかった話に詳しく書いています。行政を挟まない農家同士の紹介で、就農2年目の若手ぶどう農家の方にも引き合わせてもらい、竹田市・由布市とは違う熱量のあるコミュニティに触れた実感がありました。

作物をぶどうに絞った理由

日田で興味を持ったのはぶどうでした。ファーマーズスクールという制度自体、実は果樹の新規就農とは相性が良くないという構造も見えてきました。スクールは1〜2年コーチ役を務める先輩農家がいて初めて成立する仕組みなんですが、果樹の新規参入は既存の園地を引退する人から引き継ぐケースが多く、その引退する当人にコーチを頼むのは筋が悪いという話です。実際、紹介してもらった若手ぶどう農家の方はファーマーズスクールを使わず、農協の部会に入り込んでOJTで就農した前例の持ち主でした。この存在が、自分にとって「制度に頼らず飛び込む」決断の後押しになりました。

移住後に直面した「農地継承は運の世界」という現実

古い果樹園を前に途方に暮れる会社員

2024年12月、就農を前提に日田市へ移住しました。移住してすぐの12月20日には、農政課に自己紹介資料を提出して相談する機会をもらいました。個人事業の経験・ITスキル・プロジェクトマネジメント力・作業効率化のスキル・準備してきた資金力という5つの強みを整理して伝え、関係構築の足がかりにしたいという狙いがありました。

継承農地の実情

ただ、肝心の農地探しはここからが本当の勝負でした。移住後1年ほど暮らした肌感覚で言うと、継承の対象になる農地は年間1〜2件程度しか出てきません。決まった件数があるわけではなく、高齢の農家の方が引退するタイミング次第という、こちらでコントロールしようがない話です。しかも案件が出たとしても、坂が多い、希望より広すぎる・狭すぎる、設備が老朽化していて追加投資が必要、といった条件の良くないケースが多いんですが、それも仕方ないと思うようになりました。果樹園をゼロから開業すると収穫まで数年かかるうえ、棚や機材だけで初期投資が数千万円規模になることを考えると、継承で始められること自体がありがたい話で、配られたカードで戦い抜く覚悟が要る場面もあるというのが正直な実感です。

移住とセットで就農を目指す人への示唆

一つ、一般化できると思うのは、移住と新規就農を同時に進めるのは、コントロールできない不確定要素を2つ同時に抱えるということです。住む場所の好条件が出るタイミングと、農地の紹介が出るタイミングは、どちらも自分では決められません。両方が同時に揃うのはかなり運がいい話なので、どちらか一方を優先して一つずつ進める方が現実的だと思います。だからこそ、住まいは身軽に動ける賃貸を選び、その自治体の中で農業が盛んなエリアを把握したうえで、その周辺に物件を探すという工夫は、今から新規就農を目指す人にもおすすめできます。地方移住そのものの後悔ポイントは地方移住で後悔しないためのチェックリスト|2段階移住の実体験にまとめているので、あわせて確認してみてください。

まとめ|今はどう着地しているか

畑仕事の道具を片付け、静かに満足そうにしている会社員

2026年7月現在、専業での新規就農という道は選ばず、不動産・配当・民泊・農業を組み合わせて育てるRyukaという事業の形に舵を切りました。農政課には農地のあっせんが不要になった旨をすでに伝えてあります。今は暮らしの中で畑と向き合いながら、将来的には直売所での販売も視野に入れた「農のある暮らし」として着地しています。

この記事の要点は次の3つです。

  • 新規就農の相談は、農政課に足を運び紹介された農家に会いに行くことの繰り返しでしか進まない
  • 市町村ごとに推奨作物や支援の温度差があり、作物軸で場所を選び直す柔軟さが必要になる
  • 農地継承はタイミング頼みの「運の世界」で、移住と就農を同時に狙うなら住まいは身軽な賃貸を選ぶのが現実的

専業就農ではなくたどり着いた、家庭菜園から農地設計までの詳しい経緯は半農半Xとは?会社員向け始め方4ステップにまとめています。

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